LOGIN「ここが村長の家だよ」
「感謝致します」彼女に感謝の念を示すのは至極真っ当のことである。見知らぬ私に声を掛け、さらには案内までしてもらった。ロラがいなければ、村を延々と彷徨っていただろう。
「いいよ、こういうのお互い様だし」
そう言いながら、家の扉をこつこつと叩く。
何か厚意を受け取ったなら、それ相応に報わなければならないのではないか。少なくとも、首都ルユではそんな成り立ちだったはず。だとするなら、私もそれに則り恩を返すべきなのだろう。ただ生憎、提供出来るものが戦闘力しかないため、その恩返しはしばらく先の話になると思うが。 思いながら、家から現れた女性と会釈を交わす。ロラと親しげに会話しているところを見ると、どうやら親しい間柄らしい。「騎士様、遙々ようこそおいでくださいました。あいにく主人は留守にしておりまして」
「そうですか。奥様、どちらへ行かれたか教えて頂いてもよろしいでしょうか」 「もうじき帰ってくると思いますので、家の中でお待ちください」そう言って彼女は深くお辞儀した。頬から離れたもみあげが、力なく垂れる。村長の妻というには些か若い、娘と言っていい奥方だった。三つ編みにした髪を左肩に流し、しめっぽい瞳を輝かせている。肌の艶も良く、首筋の皺も少ない。
それに比較的茶髪が多く見られた中、金髪というのは珍しかった。どこか近隣から嫁いできたのだろうか。 最も、国内を見ればそれほど珍しい髪色ではない。素性の分からない私の白い髪よりよっぽど鮮明で綺麗な色だ。「騎士様? どうかしたの」
奥様の風貌を見つめていた私にロラが呼びかけた。
「いえ、村長の奥様というにはお若いなと思いまして」
「あら、お世辞がお上手なのですね。騎士様」そう言いながら、きちんと整った薄い唇が優しい笑みを作る。世辞など言えないので正直に言ったつもりなのだが、一歩引いた態度で微笑むところを見るに慎ましい女性なのだろう。
「若いよねぇ。でもこう見えて、オレリアさんは村長と三つしか違わないんだから」
「ちょっと、ロラ……」近隣の若い女性を娶った、なんて私の稚拙な予想を上回る事実だった。直接村長を見たことはないため何とも言えないのだが、村長というからにはそれ相応の年齢のはず。それにも関わらず奥様がこんなに若々しい風貌なのは恐らく、何か秘訣でもあるのだろう。
「あの。すいません騎士様」
「いえ」頬を赤らめて瞳を細め、手のひらで家の中を指し示す。そういえば、家の中で村長を待つという話だった。家の前で待機するというのも選択肢なのだが、奥様の厚意を無下にするわけにもいかないの
で敷居を跨がせてもらう。「じゃあ騎士様、これからよろしくね」
ロラが軽く手を振ってくれる。これから何度も会うことになるというのに。
私はそれに、軽く頭を下げて応える。 そのときだった。「騎士っていうのはそいつかい」
毒のある言葉が針のように背中を突き刺す。それは雷のように突然のことで、私は無意識に振り向いた。
「ちょっとちょっと、なんなのさアレクシ」
唐突に放られた言葉に対して、間髪入れずにロラが言い返す。
無駄な肉はほとんどなく、痩せすぎず引き締まった体を持つ男性だった。少し土で汚れた外套を纏い背には弓矢を携えた、逆立った赤茶の髪を持つ青年がそこに立っている。「なんでここにロラがいるのか知らねぇが、俺はそこの騎士に用があるんだ。黙っててくれ」
「なんで?」 「どうしても」それにロラは眉を不満そうにしかめた。嫌だとでも言いたそうな顔で、下唇を突き出している。
「私に何か御用でしょうか」
当然、彼と私は初対面だ。従って、因縁をつけられる謂われはない。
「何か御用、だと」
顔が露骨に歪んでいく。まるで嫌なものをひたすら見せられているように。
「逆だ逆! この村は騎士に用なんてねぇんだよ」
初めてやって来た場所で、初めて会う人物に、訳の分からない嫌悪感をぶつけられている。分からない。なら理解の及ばないものは殺してしまえばいい。
そう至って剣の柄を握ったのは本当に、無意識だった。「ちょっと騎士様!? ストップ! ストップ!」
そう言ってロラが私の肩に触れた。きっとそうしてくれなければ、そのまま鞘から剣を抜いていただろう。
「俺達自警団がずっと村を守ってきたんだ、今更のこのこ来られてもお呼びじゃねぇよ」 なるほど。その主張で私の中で納得がいき、柄から手を離した。 カルム村は住民の中で自警団を結成して自衛している。今までそうして村を守ってきたのだろう。その中に今さら私が来たものだから、自警団としては不満や拒否反応があってもおかしくない。 ただ、そんなこと私に言われても困る。「私は軍の命令を受けここへ来ました。帰ることは出来ません」
「知るか、それはそっちの都合だろ」その声色には隠そうともせず苛立ちが内包されていた。燃え盛る木炭のように、今にもかっと弾けそうな雰囲気だ。
「帰れません」
「うるさいな」その二つの言葉だけが行き交う問答がしばらく続いた。帰れと言われたところで、しかし王都を追い出された私に帰る場所はない。任務を全う出来ない私など、塵芥も同然で価値もない。
「せっかく来てくれたのに、そんな言い方ないでしょ」
ロラが割って入る。終わりの見えない押し問答はそこでようやく区切りとなったが、根本的な解決にはならない。ロラには迷惑を掛けてばかりだが、恐らく私か彼のどちらかが譲歩しない限りは収束しないだろう。私は下された命令を遂行しなくてはならない。今更騎士は不要という主張など、私には関係のないことだ。
「あっちが勝手に遠いところから来ただけだろ、別に労わることじゃねぇ」
「アレクシ!」 「それに、こんな蹴ったら簡単に折れそうな奴にうちの村は任せらんねぇよ」 「いや蹴ったら折れそうって……」その表現に、ロラは眉を顰める。
「私の戦闘能力を疑問視している、ということでしょうか」
もし私の体を一撃でへし折ることが出来る肉体を持っているとするならば、なるほど。それは村にとって頼もしい存在かもしれない。来たばかりの私とどちらを頼るかと言われれば、彼を頼るだろう。
「それもある。どう見ても強そうには見えないからな」
「そうですか。では、今ここで私があなたを制圧すれば認めて頂けるということでしょうか」決して突拍子もないことを言ったつもりはない。実力を示すことは彼を納得させる手段としては一番適しているはずだ。ただ私以外驚きで目を張っているところを見るに、それは耳を疑うような言葉だったことが鑑みられる。一番手っ取り早い解決策だと思ったのだが。
「騎士様!?」
「舐めてんのかお前」 「いいえ、決してそのようなことは」自信があるのだろう。今まで村を守ってきた自警団の一人として。その実績があるのは認めよう。ただ私も帰るわけにもいかないため、その自負を手折ることで任務を続行する証明にさせてもらおう。
「いいぜ、その挑発乗った。広場に来い」
自信を頬の冷笑に暗示させて、親指で石畳の広場を指し示した。
盾の男が今一度無力化されたことで、状況を打破する方法がなくなり抵抗する気力が失せてしまったのだろう。なので、これ以上私も彼らを攻撃する必要もない。放置しても、盾の男が覚醒すれば勝手に解放して消えてくれるはずだ。 思って、泉で剣を濯ぎ始める。念のため彼らからは少し離れた場所で。次いで肌着を脱いで体を洗う。裸になって泉に入ると、そこにゆっくりと体を沈めていく。ひんやりと冷たい質感。水中は割合明るく、硝子のように厚みを持ち、陰気でも陽気でもない軟柔な感触に包まれる。 水中には川魚が泳いでいた。到底彼らの追い付くことは叶わず、近寄って来ては逃げていくを繰り返す。まるで遊ばれているような感覚だった。 そうしてしばらく泉に体を沈めた後、水中を出る。今まで纏っていた水流が、渦巻いて全身を抜けて泉へと帰っていく。 振り返ると、既に彼らの姿はなかった。水浴びをしている間に覚醒し、去ったのだろう。確かにこれ以上の関りは互いに無意味で、もう一度交戦となっていたとしたら死を覚悟してもらわなければならない。なので、その判断は正しい。水浴び後の森の中は、青い氷のように空気が流れていて、清々しい気持ちになった。 昨夜は雨に打たれて、乾いたとはいえそのままの身だった。湿気を纏い、お世辞にも清い体とは言えない。そもそも兵士であったときも毎日湯浴み出来たわけではないし、私だけ五分という制限もあった。制限なく体を洗うことなど、恐らくは初めてのことだ。そう考えると、もう少し長く身を沈めていても良かったのではとも思う。 だが、その思いは武具や肌着を置いてきた地上を見た途端吹き飛んでしまった。 大きさは馬の程。白い羽毛に包まれた強靭な獣の四肢に猛禽類の頭を持って、魔獣と呼称されるグリフォンが、そこにいたからだ。まるで幾重もの刃を突き付けられているような眼光の威圧感に、腹部を捩じられているような鈍痛を感じる。 どうして、ここに。 まず初めに浮かんだ言葉はそれだった。 グリフォンについて私が知ることはほとんどないが、おいそれと姿を現す存在ではないはずである。それが今、私を咎めるような鋭い目つきで見ている。言葉のない、窮屈な詰問とすら感じた。 一陣の風がさっと吹く。
「馬鹿め、敵うはずないだろ!」 鋭い声で叫ぶと、男たちは武器を取り出して構えた。両者とも金髪であるため、どうやらフリストレールの者ではないらしい。槍を持つ男と、盾を持つ男。役割を攻守で分担しているようで、見たことはないが恐らく動きづらいだろう。槍の男は既に突きの体制に入っており、私の喉元を正確に攻撃する。私はそれを屈んで躱すと、そのまま懐へと走った。「兄貴!」 盾の男が、武具を槍の男の前に翳す。 その判断は正しい。なぜならすでに、私はペティナイフの一本を男たち目掛けて投擲していた。ペティナイフは金属製の盾により音を立てて弾かれ、男たちの足元へと落ちる。「よくやったぞ兄弟!」 槍の男が叫びながら、跳躍する。盾の男の肩を足蹴にして跳び、私の頭上を越えて背後に降り立つとそのまま槍による刺突を放つ。「は?」 だが、石礫でも当たったような痛みだった。恐らく穂先は刃物ではなかったのだろう、全くの無痛というわけではなかった。刃は私の背中にわずかに刺さり、そして引き抜かれる。その間に、私は槍の男との距離を詰め、空いた顎に大剣の柄を叩き込んだ。「兄貴!」 その声と同時、槍の男は地に崩れ落ちた。手加減はしたため殺害はしていないだろうが、殺傷力の高い攻撃のため保証は出来ない。そのまま盾の男へと走ると、既に防御態勢は取られていた。眼前に盾を突き出した、完全に防御に徹するという構え。 しかし、躊躇なく。その盾に大剣を降り抜く。「ま、マジかよ……」 砕け散る盾を見て、男は思わずそう呟く。 呆ける男の首根っこを掴むと、そのまま地面に叩きつける。喘ぐ呼吸は火焔のようだった。抵抗しようと私の手首を掴むが、男の意識はそこで途切れる。四肢を放り投げて、そのまま動かなくなった。男たちは何者なのだろう。 そう思いながら、近くに自生していた蔓で男たちの手足を縛る。大した拘束力はないと思うが、縛らないという選択はない。生きていたらの話ではあるが、話は彼らが覚醒してから聞くことにする。 私は鎧を洗わなければならないのだから。それでも目覚めなければ、
村の外は変わらずに緑の海だった。昨夜の名残である滴を付けた葉がそこかしこで光り、原を進むたび私の脛当や鉄靴を濡らす。草原は広く、遠くに見える森もどれだけ距離があるのか一行に掴めない。恐らくは森の中に川が通っているのだろうが、その肝心の森がずっと遠くにあるように感じられる。しかし、列車を降りて見た景色よりは遥かにマシに思う。見渡せど見渡せど、カルムへの往路は草原以外何も見えなかったのだから。 そう考えると、草原に果てに見える濃緑の塊も少しずつ近寄って来ている風に感じた。そういえば、村の男たちはどこに畑を作っているのだろう。見渡しても一面には緑の大地しか見当たらず、まさか見えないぐらい遠い場所で農作業をしているわけではあるまい。この広い平原に畑を隠匿する術があるというのなら、それはそれで魔法と言っていいだろう。 そうしているうちに、森が近づいてきているのに気が付いた。風が吹き渡り、白く光りながら野原は波を立てる。小鳥の声がしきりに耳をつつくが、姿は見えない。草むらの中に隠れているのだろうが、しきりに風が葉の音を立てるので正確な位置は把握出来ない。把握しようと耳を立てれば、その音は雑多な騒めきによって掻き消されてしまう。野鳥ならば森に姿を隠すものだと思っていたが、どうやらこの辺りの小鳥達は草原に身を寄せるらしい。それとも、何かしらの理由で森にいられない理由があるのか。昨夜、巨狼が荒らしていた森からは梟の鳴き声がしていた。梟は猛禽類だ。だが、巨狼と梟という理由だけでは、小鳥が追い出される理由としては弱い。小鳥を主食とする害獣が住んでいるのか、或いは、もっと別の脅威が存在しているのか。 考えても仕方がない、散策すれば分かる事だろう。そう至る頃には森は目の前まで迫っていた。ほどなくして草原を抜けると、ひしめき叢がる緑の大海が眼前には広がる。恐らく川が流れているであろう、南方の森へとたどり着いたのだ。永遠に横へ広がっているはずはないため迂回しようと思えば出来るのだが、その果ては見えない。となれば進むには森を行くしかない。 思って、先ほど商店で購入したペティナイフを取り出す。通った木に印を刻んでいくためだ。どれほど広いか分からないため必要かは不明だが、戻る際迷わないに越したことはないだろう。 入り口に立つ一本の木に
ロラの家に戻ると、彼女はいつの間にか戻って来ていた。幼馴染である鍛冶屋の様子を見に行っただけなので、そこまで長居はしなかったのだろう。見ると薬草をすり潰しているところで、どうやら昨日制作していた治癒液は違うらしい。制作過程を見ていないため、もしかしたら同じものを作っている可能性も捨て切れないが。「あれ、騎士様お帰りー。随分遅かったね」「カルムの構造を把握しておきたいと思いまして。少し歩いておりました」「そっかそっか」 すり潰した薬草を鍋に入れながら、ロラは同意するような人懐っこい笑顔を見せた。「それで、一通り見て来たって感じ?」「いえ、商店のご主人に頼まれ事をされてしまって」「商店……? あぁ、もしかしてその人声が大きい?」 同意するように頷くと、呆れたように口角に笑みを作った。ロラがそう言うからには、あの店主は普段から声が大きいことで村に浸透しているのだろう。「それで、頼み事って?」 ロラは作業するその手を止めて聞いてきた。話す内容をしっかりと聞こうという姿勢を感じる。対して、私は店主の依頼を出来るだけ彼が言ったことをそのまま彼女に伝えた。説明は苦手だ。正確に事を伝えなければ殴られる環境にいたせいで、言葉にする際妙な緊張感が胸を締め付けてくる。痛かったというわけではないのだが、やはり苦手と言わざるを得ない。「あぁ、確かに最近来ないわぁ。あたしもたまに薬を卸してたからさ、どうしたんだろうって思ってたんだ」 ロラは思案するように首を傾げると、机の上に並んだ何本かの瓶に目をやった。商品として渡すつもりでいた治癒液なのだろう。カルムに寄る商人は一人ではないため特にという風ではなさそうだが、たしかに困る者が何人もいるなら解決したほうがいい事案だと、私は思った。もちろん、私の都合が噛み合ったからというのが大きいが。「その商人の特徴を教えてもらえますでしょうか」「特徴かぁ。そうは言ってもグリフォンに乗ってるのが一番の特徴だからねぇ」 それではグリフォンと一緒にいない場合、判断が出来ない。そう言うとロラは家のあちこちをうろうろし
そうして2本のペティナイフを購入すると、商店を出た。値段は良心的で、今まで意図して支給される金貨の数を減らされていた私にとっては、とてもありがたい。村だからこその価格設定なのだろうが、なんにせよこれで万が一の際における暗器も確保出来たことになる。 外に置いた武具を装備し直すと、そのまま巨躯の彼が立つ入り口へと向かう。雨で洗われたとはいえ、この鎧も一度血に塗れている。そろそろ一度水洗したいところではあるが、そのようなことをしている場合ではない。付近に川か泉なんかがあれば別だがあまり期待はしないことにする。 村の入り口には早朝と変わらず巨躯の彼が立っていた。岩陰で番人の責務を横着していた双剣の彼女とは違い、しっかりと腕を組んで入り口に立ち塞がっている。 だがしかし、そこには何故か兵士の姿があった。先日まで私も装備していた防具を身に着けたその兵士。何やら巨躯の彼と兵は互いに声を張り上げており、押し問答を繰り返しているようなのである。私にはどうしてカルムに首都を護るための兵士がいるのか分からず、その様を見つめていた。「だから、この村にエメなんて奴はいねぇんだって」「分からない奴だ、あの女がここに昨日来ただろう? あいつを出せと言っているのだ」 兵士の言っていることを汲み取るとどうやら誰かを探しているようだ。そして、その誰かの名前は明らかに私の名前を告げていた。「失礼いたします。どうかされたのですか」 出せ。知らない。そんな嚙み合わない主張の間に割って入る。そういえば、巨躯の彼は私が名乗る前にその場を立ち去ったのだった。声に反応して、両者は私へと顔を向ける。特に兵士のほうは侮蔑をきわめた表情を二つの目に集め、私の顔を斜めに見返す。道端の吐瀉物でも見てしまった、そんな顔。「おう騎士様」 巨躯の彼はそう気さくに反応した。それに、私は頭を軽く下げることで返事とする。状況に反してあまりに気軽に返されたものだから、少し意外だ。今まで目の前の兵と言い争っていただけに、こちらにも苛ついた風に返事をするだろうと思っていた。「幽霊のくせに出迎えが遅いんだよ! いい身分になったもんだな」 怒りと苛立ちが含まれた声。
「何故、ですか」 そう問うと、店主は体をそのままに背後の階段を見る。「娘が怖がんだよ」 子供が怖がっているのは恐らく、声量も一因だろう。などとは口が裂けても言えない。余計なことを口にして処分された兵などたくさんいる。「……承知いたしました」 装備を解除する不安は若干あるが、そう言われたなら仕方がない。大剣の留め具を外し、地面に突き刺す。たしかに、大剣は店内に入るうえで私以外の者には邪魔になる。剣を地面に突き刺した音で、店内にいる者が驚異の眼をみはった。 そして腕当てから外していき、上半身の武装を解いたところで何故か店内で雑多なざわめきが起きていることに気が付く。肌着は着ているため、素肌は晒していないはずだが。「おいおい、待て待て待て!」 どうしてか、その声色には奇妙な焦燥感が含まれていた。そもそも声量の大きい彼がさらに声を張って、村人たちは耳を押さえる。昨日聞いた汽笛にも勝る声量に、かたかたと商品棚が揺れた。「いかがされましたか?」 私の手はちょうど腰当を外そうとしていたが、そんなにも大きな声を出されたら止めざるを得ない。「いかがなされた、じゃねぇよ! こんなところで脱ぐんじゃねぇ!」「ですが鎧を外すよう言われましたし、それに肌着も着ています。猥褻な恰好を晒すわけではないので……」「そうじゃねぇ。入り口でそんなことされたら邪魔だっつってんだよ」 なるほど。幸い誰も入店がなかったため阻害にはなっていなかったが、決して広いわけではない出入り口で装備を解除するべきではなかった。剣と鎧を持ち込むなという言葉を優先してしまったため、たしかにその怒声は道理だ。上官が武装解除と言えばその場で鎧を外すことが当たり前であった私には、その配慮は欠けていた。「……失礼しました」 一瞬だけ、ここへやって来るときに着ていた洋服のことが頭をよぎった。恐らく村内を散策するのに印象がいいのはあの装いだろう。だが、あんな動きづらい服で歩き回っていてもしもの事があった場合を